ウルブリヒ四重奏団を聴く(1)

ウルブリヒ四重奏団を聴く(1)

最近縁あって、ウルブリヒ四重奏団のレコードをいくつか聴いた。
ちょっとそのことについて聴いたり、考えたりしたことを。
まずは、彼らの紹介から。

ウルブリヒ四重奏団は、東ドイツを代表する弦楽四重奏団として知られる。
創設者であり第1ヴァイオリンを務めたルドルフ・ウルブリヒ(Rudolf Ulbrich, 1924–2005)は、長年ドレスデン国立歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン)の副首席奏者を務めた名手であり、その精緻なアンサンブル感覚と誠実な音楽性をもって、戦後ドレスデンの室内楽文化を象徴する存在となった。
四重奏団は1949年に結成され、以後1980年代半ばまで活動を続け、約四十年にわたって安定した演奏活動を展開した。メンバーにはヴァイオリンのギュンター・カルピンスキ、ヴィオラのヨアヒム・ツィンドラー、チェロのエルンスト=ルートヴィヒ・ハマーらが名を連ね、いずれもドレスデン音楽大学やカペレの主要メンバーであった。

ウルブリヒ四重奏団の演奏は、派手な個性や強い表情を避け、作品の構造的な美しさと響きの調和を重んじるものであった。ドレスデンの弦楽伝統に根差した、やや厚みのある柔らかな音色、そして声部間の対話を大切にしたバランス感覚は、同時代のアマデウス四重奏団やズスケ四重奏団とも一線を画している。彼らの録音を聴くと、フォルテにおいても決して角を立てず、弱音では極めて内省的な美しさがあり、全体として知的で落ち着いた印象を与える。そうした音楽観は、東ドイツの音楽教育と演奏文化が持っていた「誠実な職人芸」の典型と言ってよいだろう。

録音活動は主に国営レーベルETERNAのもとで行われ、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスなどの古典派からロマン派にかけてのレパートリーを中心に、現代東独作曲家の作品も取り上げた。その中でも特に評価が高いのが、モーツァルトの《弦楽五重奏曲》のシリーズである。第2ヴィオラにはヨアヒム・ウルブリヒ(Joachim Ulbricht)が加わり、K.174、K.406、K.515、K.516、K.593、K.614の主要5曲を70年代に録音。ETERNAのカタログでは 8 26 067〜069 の3枚に分かれて発売された。録音はドレスデンのルカ教会(Lukaskirche)で行われたとされ、自然な残響を生かした音場の広がりが印象的である。そこには、西側の華やかな演奏とは異なる、静謐で内面的なモーツァルト像が描かれている。各声部が平等に語り合うような透明なアンサンブル、節度をわきまえたテンポと音量のコントロール、そして響きの純度を損なわない慎み深い表現――これらすべてが、彼らの美学の核心であった。

このモーツァルト録音は、派手さを求める耳には控えめに映るかもしれない。しかし、その内側には、四十年近い共演で培われた呼吸の一致と、作品の構造を見通す明晰な知性が宿っている。特にト短調K.516の終楽章で聴かれる、絶望から静かな慰めへと至る流れの美しさは、装飾を排した語り口の中に深い人間的感情が滲み出る名演といえるだろう。今日、世界的な知名度は決して高くないが、ウルブリヒ四重奏団の録音は、東独時代のETERNAが築いた「精緻で真摯な室内楽録音」の代表例として、今なお収集家の間で静かな人気を保っている。

彼らのLPはこちらからどうぞ。