ステレオサウンド誌の233号が発売されました。
当店のPRページ「オーディオファイルのためLPガイド」ももちろんあります!
そのページ内のLPのリストはこちらからご覧になれます。
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以下は、その本文です。
オーディオファイルのためのLPガイド
金子 学
話題その1 カラヤンのオペラ録音について
カラヤンの最後のオペラ上演での指揮姿の動画が話題になっている。
もちろん、彼は20世紀を代表する指揮者であるが、欧米ではオペラ指揮者としての評価はいまでももの凄い!
彼の業績をレコード録音の観点から見てみよう。
カラヤン最後の指揮姿
先日、ネット動画をあれこれ見ていたら、ちょっとびっくりするものを見つけた。彼が生涯最後にオペラ上演(「トスカ」)を指揮した姿である。(全曲)
「トスカ」といっても、舞台の画像はなく、全曲にわたってカラヤンの指揮姿のみとなっている。(白黒)
舞台の裏方の作業用のためのカラヤンの姿を追ったカメラの映像が録画されたのだと思われる。
81歳を迎えたカラヤンの最後の指揮姿に感動するファンも多いのいではないか。(私もその一人)
この感動的な動画が収録されたのは、ザルツブルグでの「復活祭音楽祭」。(1989年3月)
この後、彼は4月にウィーンでブルックナーを指揮し、7月16日にはこの世を去っている。
独特のカラヤンのオペラ・レコーディング方法
ここでは、彼のオペラの録音手法についてちょっとお話したい
1 復活祭音楽祭
1955年にベルリンフィルの終身芸術監督に指名されたカラヤンは、翌年ウィーン国立歌劇場の同じく芸術監督に就任し、文字通り「楽壇の帝王」となる。
カラヤンはウィーンでは、理想のオペラ上演を目指すために今までのオペラ上演にいろいろな改革を行った。しかしながら、この改革があだとなって1964年にウィーン国立歌劇場を「追われるように」去ることになる。
そしてカラヤンは、彼の「理想のオペラフェスティバル」を目指して、試行錯誤をしなければいけなくなる。
まずは開催場所、これは、彼の故郷であり、音楽祭の街として有名なザルツブルグに落ち着くことになる。
次は開催時期。
夏の音楽祭のシーズンは、他の都市でも有名なオペラ歌手などは引っ張りだこになるため、ほかの時期を検討して、ヨーロッパでは長期休暇となる復活祭の前後に、音楽祭を開催することに決めた。
それが、今でも毎年開催されている「ザルツブルグ復活祭音楽祭」だ。
オーケストラは、オペラに長けたウィーンフィルを使いたかったらしいが、この時期はウィーンでも「パルジファル」を上演しなくてはならず、最終的にはベルリンフィルに落ち着いた。(しかしながら、オペラの経験がほんどないベルリンフィルははじめのうちは、かなりてこずったらしい。あのベルリンフィルでも・・・)
2 復活祭音楽祭のプログラム
復活祭音楽祭のプログラム構成は、決まったパターンある。
4日間の上演を1チクルスとして2チクルス上演され、第二チクルスの最終日が「復活祭の月曜日」となる。
その構成は、
オペラ(基本的にカラヤンが指揮そして演出を担当)
オーケストラ・コンサート(2回)
合唱コンサート(第九・レクイエム・マタイ受難曲など合唱を伴う大曲)
3 画期的なオペラ録音&上演システム
さて、その中でのオペラ上演であるが、ここにカラヤンの作った画期的なシステムが組み込まれることになる。
そのシステムとは、レコード録音と上演を並行して行うことである。
まずは、音楽祭前年のベルリンフィルのベルリンでのコンサートにおいて、復活祭で上演予定のオペラのコンサート形式での上演を行う。
そこで、みっちりとリハーサルを行ったうえで、同時にレコードの録音を行うのである。
そして、そのレコードは翌年音楽祭にやってきた観客には無償で配られる。
それも、彼の直筆サイン入りで!
こうすれば、ザルツブルグでのリハーサル時間が大幅に短縮でき、レコード録音とベルリンでのコンサート、そしてザルツブルグでの上演と非常に効率的に仕事ができることになる。
いかにも彼らしいシステムである。
彼らしい厳密なリハーサルに並行して録音された演奏は、これまでのオペラ録音のLPではなかなか聴けなかった、緻密なアンサンブルと彼好みのオペラ歌手たちの歌唱と相まって、素晴らしいオペラの全曲録音が毎年発売されることになる。そしてそれらは、今でも各名オペラの定番的名演として、今でもLP・CDで多くのファンを楽しませている。
その主要なオペラのLP録音は次の通り。
まずは、彼の念願だったワーグナー
「ワルキューレ」(1967)
「ラインの黄金」(1968)
「ジークフリート」(1969)
「神々の黄昏」(1970)
「パルジファル」(1980)
ほかには、
「フィデリオ」(1971)
「カルメン」(1985)
「ドン・ジョヴァンニ」(1987)
などがあげられる。
まさに、彼の「ライフ・ワーク」と言えるだろう。
もちろん、彼は何度も来日し、ベルリンフィルとのコンサートを数えきれない回数指揮したが、残念ながらわが国でのオペラ上演はなかった。
もし、それが実現されていたなら、と考えると彼への評価はもっとかわっていたに違いない。
話題その2 ベルリンフィルの「マーラー全集」
ベルリンフィルの自主レーベルである「ベルリンフィルハーモニーレコーディングス」から、このたび、新譜LPが発売されることになった。(この原稿作成時点では、10月下旬発売予定)
いままでも、フルトヴェングラーや現音楽監督のぺトレンコの録音集など、演奏と録音に秀でたものばかりのこのレーベルの新譜は、なんと17組の「マーラー/交響曲全集」。
それも10人の現代を代表する指揮者たち(故人を含む)が、名演を競い合っているのだ。この原稿執筆時点では、まだLPは来ていないが、数年まえに発売された同内容のCDは何度か聴いて非常に感銘を受けた。その各々について書くスペースはないが、特に個人的には、ぺトレンコ(第7番)、ハイティンク(第9番)そして、アバドの第10番は特にすばらしいといえる。
また、これらのLPが収められているボックスの装丁も従来の同レーベル同様に贅沢を極めたもので、「持つ喜び」を満足させてくれる。
なお、このセットは全世界で1000セット限定であるため、発売後すぐの売り切れが予想される。お早目のご注文を!(当店オリジナルの購入特典あり)
ベーレンプラッテ店主