入手の非常に難しい、ニッフェネッガーのバッハ/無伴奏チェロ組曲のLPが入荷しました。
このLPの紹介文を書いてみました。
LPの詳細は、こちらから。
https://www.lpshop-b-platte.com/SHOP/373066.html
20世紀後半のスイスを代表する女流チェリスト、エステル・ニッフェネッガー(Esther Nyffenegger) による《バッハ:無伴奏チェロ組曲 全曲》(BWV1007–1012)は、数ある同曲録音の中でも特に希少性と芸術性を兼ね備えた存在として知られている。本盤は1971年にスイスのプライベート・レーベル Armida(ドイツプレスです) からリリースされた3枚組LPボックスセットで、今日では世界的に入手困難なアイテムとしてコレクター市場で高く評価されている。
まず注目すべきは、彼女がこの録音で使用した楽器のこだわり。17世紀製グァルネリ(1657年)、18世紀製テストーレ(1740年)、そして当時の新作であるザンドナー(1968年)という、異なる時代・系譜の3挺のチェロを組曲ごとに弾き分けている。これにより、楽器の個性を活かした多彩な音色が展開され、バッハの音楽に一層の深みとニュアンスをもたらしている。古典的な温かさから現代的な透明感まで、チェロという楽器の可能性を聴かせてくれる稀有な録音といえるではないか。
演奏そのものは、師であるパブロ・カザルスの精神を受け継ぎつつも、独自の清澄な解釈を示している。テンポは比較的落ち着いており、各声部の明確さと構築性を重視したスタイル。過度にロマン的に流れることなく、作品の内在的な対位法の美を浮かび上がらせている。特に第5番ハ短調のアルマンドやサラバンドにおける沈潜した響きは、彼女ならではの精神性の高さを感じさせる。
また、本セットには豪華なブックレットが付属し、録音や使用楽器に関する解説も収録されていることもすばらしい。プライベート・プレスならではの丁寧な作り込みは、単なる音盤を超えた資料的価値を備えており、研究者や愛好家にとっても重要な一次資料となるにちがいない。
このLPは、日本国内では流通量がごくわずかで、店主も見かける機会はなかった。状態良好な完品が出回るのは稀であり、今回の入荷はまさに一期一会!。
エステル・ニッフェネッガーの名は今日では決して広く知られてはいないが、この録音に触れれば、彼女が残した芸術的遺産の大きさに驚かされるにちがいない。バッハの無伴奏チェロ組曲という永遠のレパートリーに対し、女性チェリストとしていち早く全曲録音を残したその功績も大変意義深いものといえよう。