オーディオファイルのためのLPガイド
最後の演奏会
バックハウスとリパッティ
自由業である音楽家は、基本的には、「定年」はない。死ぬまで演奏活動を行うことができる。
しかし、声楽家や管・弦楽器奏者などの、肉体を楽器とする人々はおのずから、ある程度の年齢となると「引退」のときがやってくる。けれど、引退はしても、その後の人生を長く送った演奏家は数多い。たとえば、シュワルツコップは、引退後20年以上も、各地で講演会等を開いていた。
一方、指揮者やピアニストはその性格上、文字通り、「死ぬまで」演奏活動を続けた人が多い。
今日は、バックハウスとリパッティが残した、彼らの生涯「最後の演奏会」のLPを久しぶりに聴いてみた。
ケルンテンの夏・バックハウス
「鍵盤の獅子」ウィルヘルム・バックハウス(1884~1969)は、数少ないベートーヴェンの直系の弟子に当たる。彼のベートーヴェン解釈は、最もベートーヴェンに近いとされ、彼のレパートリーの中でも、中心的な位置を占める。彼がDECCAに残した、ベートーヴェンのピアノ協奏曲とピアノソナタの全曲録音は、現在でも、クラシックファン、ピアニストにとって模範的な演奏とされ、聞き継がれている。
そんな彼の、「最後の演奏会」は1969年の6月28日にやってきた。彼は、現在の「ケルンテンの夏音楽祭」(オーストリア)の前身となるオシアッハの修道院教会(シュティフト・キルヘ)の再建記念コンサートに迎えられた。ここで、彼は、6月26日と28日にリサイタルを開いたのであった。
6月26日の一回目のコンサートは、無事終了した。悲劇は、二日目の28日に訪れることになる。
彼は、得意のベートーヴェンのピアノソナタ第18番の第3楽章を演奏中に、心臓発作を起こしてしまうのである。彼は、「少し、休ませてください!」と言い残して、第四楽章を弾くことなく、ステージからそのまま、控え室に戻ることになる。医師団は、「これ以上、演奏を続けてはならない!」と忠告したが、それを退け、残りのプログラムを変更し、何とかコンサートを弾き終えたが、そのまま病院に担ぎ込まれた。その七日後に、彼は、この世を去ってしまった。
この二日間の演奏会は、DECCAの手により録音されている(アルバム・タイトルは“Sein Letztes Konzert”「最後の演奏会」)。
このLPには、彼自身の「少し、休ませてください!」の肉声も入っており、ドキュメントとしても貴重なものである。
演奏は、技術的な傷は少々見受けられるが、バックハウスの晩年の、青空を思い起こさせる澄み切った境地と生命感を味わうことができる、すばらしい録音である(なぜか、このLPは、日本とドイツのみで、DECCAの本拠地イギリスではリリースされていない)。
これがそのジャケット写真(ドイツ盤のオリジナル)
詳しくは、こちらをご覧ください。
こちらはドイツ盤の(第二版)
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