カール・ズスケが録音した《バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ第1番》(ETERNA 827 842)は、アナログLPとしては唯一残された彼の無伴奏バッハである。
録音は1983年前後、すでに東独ETERNAがデジタル録音へ移行しつつあった時期で、アナログ録音としては最後期に属する。
つまりこの一枚は、アナログとデジタルの「境界」に立つ録音なのだ。(ルカ教会にて)
ズスケはこの時、ゲヴァントハウス管のコンサートマスターとして円熟期にあり、音程の純度、構築力、そして静かな集中の中に燃える知性がこの演奏を支配している。
フーガでは、重音の声部がひとつひとつ立ち上がり、無伴奏でありながらまるで四声が共鳴するような豊かさを感じさせる。
録音はETERNA特有の自然な音場と透明感に満ち、後年のデジタル録音に見られる無機質さとは一線を画す。アナログならではの空気の温度、弓のタッチの柔らかさがこの盤には息づいている。
その後ズスケは残りもすべて録音したが、時代はすでにLPからCDへと移行しており、全曲版はBerlin ClassicsからCDのみで発売された。
したがって、このLPはズスケによる無伴奏バッハの唯一のアナログ記録であり、ETERNA芸術の終焉と次代のデジタル黎明期をつなぐ象徴的な存在といえる。
アナログの温もりの中に、すでにデジタルの精密さが息づく——そんな時代の“境界の美学”を刻んだ、稀有な1枚である。
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ズスケのバッハ/無伴奏