マーラーの交響曲第9番は「別れの交響曲」とも呼ばれ、作曲者が生前に完成させた最後の交響曲として特別な意味を持つ。
この名曲をこよなく愛したバーンスタインは生涯に3度、この第9番を公式に録音しました。その中でもその三回目にあたる1985年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団とのライヴを収めたこのLPは、彼の晩年の境地を象徴する稀有な記録と言ってもいいだろう。
バーンスタインは感情の極限をさらけ出す指揮者として知られているが、ここではコンセルトヘボウ特有の柔らかで温かみのある響きが、その表現を過剰にせず受け止め、音楽全体を人間的な温もりに満ちたものへと昇華しているのだ。
第1楽章では緊張と抒情が交錯し、深い歌心に貫かれた音楽が展開します。中間楽章では土俗的なリズムの生命力が溢れ出し、第3楽章には暗い影とユーモアが交錯します。そして白眉は終楽章アダージョ。弦楽器の入魂の歌がゆっくりと静寂に溶けていく瞬間、聴く者は「死の恐怖を超えた受容」と「人生の哀しみの浄化」を体験することになる。
録音も極めて優秀だ。
アムステルダム・コンセルトヘボウのホール音響は世界屈指の美しさを誇りますが、DGGのエンジニアはその残響を自然に活かしながら、各楽器群を明晰に捉えている。弦の厚み、木管の柔らかさ、金管の輝きが見事に調和し、バーンスタインのダイナミックな指揮を鮮やかに再現。LP時代末期ならではの気品あるアナログ録音としても高く評価されている。
1979年ベルリン・フィル盤が峻烈で衝撃的な記録だとすれば、この1985年のコンセルトヘボウ盤は人間的でリリカルな成熟の境地。バーンスタインがマーラーに捧げた最後の答えのひとつであり、彼の芸術を語るうえで欠かせない演奏と言いてもいいだろう。
コレクターにとっても、DGGオリジナル盤はますます入手困難になりつつある逸品。
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